白黒の狂想曲~モノトーン・ラプソディー~
クロが私の目の前に現れたのは、院長と菅原先生が私の病室を訪れた日の、日没の頃だった。
最初に言った言葉はやはり何も包み隠さないものだった。
「君の命は残り13日だ。僕はそれを君に告げに来た」
見たこともない少年の口から飛び出したその言葉は、専門的な知識と経験を積んだ菅原先生が言った言葉よりも真実味を感じた。
普通だったら可笑しいと思うけども。
私はお医者さんの告げた「長く見積もっても後一月」よりも、その少年が真っ直ぐに言い放った「残り13日だ」という言葉に全く疑いを感じなかったのだ。
そしてそれだけ言うとクロは身を翻した。
去っていくのではなく、消えると直感した私は思わず叫んでいた。
小さな声で、思いきり。
「行かないで」と。
それから、クロは私の側にいる。
でもたまにふと居なくなる。
人がこの病室を訪れた時とか、そういえば私が明奈さんに車椅子を押してもらって散歩をしている時にも現れないな。
そんな時、クロはどんな場所にいて、何を思っているのだろう。
その時に、ほんのちょびっとだけでも、こんな私のことを考えてくれたりしているのだろうか。
「ふむ…難しい質問だな。答えはそうであるとも言えるし、そうでないとも言える」
クロは私の質問に曖昧な返事をした。
私は首をかしげ、理解できていないことを伝える。
「結論から言うならば僕は君達人間が言うところの悪魔というやつなのだろう」
「悪魔?悪魔が人間の魂を取りに来たっていうこと?」
クロは小さく首を振った。
「魂なんてものは人間の空想に過ぎない。僕は最初言った通り君の残された命を告げに来ただけ。
だから、そういう意味で言うと人間で言うところの死神であるとも言える」
んー、なんか、難しいな。
「じゃあ、とにかくクロは悪魔ってことで良いんだよね?」
大事な部分までそぎおとした簡略化。
私の問いにクロはまた小さく首を振るのだった。
「悪魔や死神という存在も人間の産み出した概念だから、僕を正確に言い表す言葉を君達は持ち得ていない。だから、君にわかりやすいように僕は僕を悪魔…に近い存在であると名乗っておくことにする」
……………………………………。
…………………。
………。
ダメだ、やっぱ難しくて分からないや、?
「とにかく、君のなかでは僕を悪魔だとおもってくれて大きな間違いはないよ」
「……はぁ」
つまり結局のところ最終的には悪魔なんかい!
なんだったの今までの一連の会話は!?
クロと話すのはたまにちょっと疲れるな。