白黒の狂想曲~モノトーン・ラプソディー~
私の世界は真白だ。
目に見える世界だけではない。
私の中身も真っ白なのだと自覚する時がある。
例えばこの病室には今まで一度たりとも私と同い年くらいの子どもが来たことはない。
親もいない、身寄りもないからカゾクというものも来たことがない。
来るとすれば院長先生か施設の先生の誰かが片手で数えて事足りる程度に顔を見せただけだった。
私にとってはそれが普通で、病院というものは看護師さんやお医者さんと話す場所だと思い込んでいた。
「ママに会いたいよぉー!」
四歳くらいの男の子の叫び声が私に感覚の欠如を知らしめることになった。
3週間の入院生活で一日だけ母親が来なかったのだそうだ。
その子はその日に一日中泣き続け、次の日母親がに会うと昨日のことが嘘だったかのように笑顔になってしまっていた。
理解できないながらも私は、その時の男の子の感情が寂しさというものなのだろうと分かった。
物語りは好きだったので院長が持ってきてくれる絵本を読んだ。
その世界の住人たちは
光るように笑い、雨空の様に泣いて、歌うように喜び、時には怒りで顔を真っ赤に沸騰させた。
物語りというフィクションのなかで起こる空想なのだとどこかで線を引いたその感情。
つまるところ、私はそれらを持ち合わせてはいなかったのだろう。
私の心に光は刺さず、雨雲も覆わないが、歌は流れず、私は顔を真っ赤にして怒鳴ったりはしない。
そう。
真っ白なのだ。