学園世界のイロジカル
「あんな子、いらないのよ」




ドアの、ほんの少しの隙間。


なぜ隙間があったのかなんて分からない。



まるで、わざと聞かせているかのような、そんな気さえする。






「おい、もし零が聞いてたら…っ、零!?」




持っていた本がバタッと落ちて。


慌てた様子の父の目が、無残にも僕をとらえてしまった。





「…いつからそこにいたのよ。

気味が悪い子ね」





…誰?





「あんたは所詮、あの女の血をひいてるのよ。

なのに…どうしてお兄ちゃんの良いところを、全て奪ってしまうのよ!!


あんたのせいで、あんたのせいで!!」




この女(ひと)は、誰?





「あんたなんかもらいたくなかったわよ…

けど、この家にいるにはそうしなきゃ…!」




「もうやめろ!いつものお前と違うぞ!

きっとストレスのせいだ、寝よう」




お母様の背中を押すお父様を、ただただ見ていた。



頭の中が、真っ白になって。ぽっかり、全てが何かに奪われた。




「…いやよ、もう。我慢ならないわ。

一也だってかわいそう…本心ではきっとあなたのことなんて、全く…」




「おい、やめろと言ってるだろう!」



この人は、誰ですか。


僕の知っているお母様?




『あなたが零君?』



黒い喪服姿さえも映える美貌を持つ、慈愛に満ち溢れたあの人は、




どこ?





「…あなたのことなんて、誰も好きじゃないのよ」







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