学園世界のイロジカル
「どうして誰も付き人をつけない」



「たまには1人で散歩をしたいのですよ」



「お前の部屋から服が数着と全ての書物が消えていたのは?」



「別の場所に移しただけですよ」



「じゃあっ……なんでっ……!」




この時、僕は一也兄さんの

美しく泣く姿も、初めて見た。




「なんで…

2人しかいないのに…敬語なんだよ!!」




何も答えられなくなってしまった。


予想していた問いになどなかったものに、口が簡単に動くはずなかった。




「…一也兄さん」


「零……?」



僕は、ゆっくりと一也兄さんに背を向けた。




「…僕は自分が怖くなったのです」


「自分、が…?」




そう。


お母様も怖くなった。

お父様も怖くなった。

ここにいる執事やメイドだって、学校のみんなだって。


けど、最後に


"自分"が怖いと思った瞬間



他のものは、全く怖くなくなった。




「一也兄さん。

僕は、僕が怖いのです。


助けてと言っても誰も手を伸ばしてくれない。

1人でもがいて助かっても、誰も喜んでくれない。

泣いていても誰も心配なんてしてくれない」




「そんなの、僕が…!」



「だから、怖いんです!!」



一也兄さんの言葉を遮ってまで出た言葉は…でっかいお屋敷しかないこの地域に、深く響いた。




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