学園世界のイロジカル
「一也兄さん…僕は

もう誰も、信じられなくなってしまった」



振り向くことなく、そう告げる。






「もちろんあなたもです、一也兄さん」






自分がどんなに酷い言葉を言ってるかなんて、そんなこと分かっている。




「もう僕は…僕は…」




後ろですすり泣く声が聞こえているというのに

涙なんて、出なかった。





「…人を、あなたを、

信じることなど…できない」




左目を左手で隠すように覆う。


この目から映す景色さえも、変わってしまった。


前までキラキラしていたはずの世界は


今では音もしない、1人だけの世界になってしまった。



「そ、そうだ…家の庭に、お前が前好きだって言ってたビスカリアをお父様が植えたそうだ。

お父様もその花が好きだとかで…一緒に見よう?」



ビスカリア…母が好きな花。

見たい気持ちがないわけじゃあない。けど…





「零、お願いだ…僕は零を待つから…信じてくれるまで待つから、

お願い…行くな…!」




この人もきっと怯えてる。恐れている。

自分が1人になることを。


…僕が1人になることを。




「…さよなら、一也兄さん」






振り向きはしなかった。



振り向いたらきっと、揺らいでしまうだろうから。




…やっと決まった心が



揺らいでしまいそうになったから。





「…お母さん…」






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