学園世界のイロジカル
頭の中によぎる。




大好きな大好きな、お母さんの顔が。





あの美しい、淡い紫色や桃色の花々が。





『それはね"ビスカリア"っていうの』




『お母さんが1番好きな花よ』







『零も、ビスカリアの心をいつまでも忘れちゃいけないわよ』








Enterキーを強く押した先の景色は、また滑稽だった。




マルコ先生の今までのメール履歴や不正に受け取った金を積んでいる通帳のあとやらが壁に浮かび、先生が膝から崩れて放心状態になる頃には、警察のサイレンが大学に聞こえてきた。





『世界が認める大数学者 不正に自分の弟子売買!?』





そんな記事がイギリスに、世界中に広まる。




僕に押しかけてくる記者陣を押しのけ、僕はまた





すでに空き家となっている、あの家に来ていた。






「…お母さん」



事故で死んだ女が住んでいたから、とこの大きな屋敷は誰も住もうとは思わないらしい。



お母さんが1番好きだった場所である広い庭に行くと、今も





あの花が、咲き誇っていた。





「…花に興味が湧いたことはないのです。

ビスカリアの花言葉…最近調べて、やっと分かりました」




さああ…と、風が吹く。


もう季節は流れ、春間近。


この花も、この季節が好きなのだろうか、とても綺麗に見える。





「けどね、お母さん…

僕は…もう、もう……」





ポタ、ポタと涙が溢れてくる。




お母様とお父様に裏切られた時も


一也兄さんを裏切った時も


マルコ先生に裏切られた時も



出なかった涙が




ポタ、ポタと…ほおを伝って、下に落ちてゆく。






「…もゔっ、僕は……!!」





誰もいない庭に、1人膝をついて涙を流す。





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