学園世界のイロジカル
「…この戦いは、楽しんだ方が勝ちなんだよ、きっと!」



泡立て器を思いっきり地面に叩きつけるイメージで、足にぐっと力を入れて…下に蹴る!



すると泡立て器はすごい速さでドン!という音をたてて地上へ。




もちろん持ち手を持っている女の子も。





「う…あ…わ、たしがこんなに早く負けるなんて……」




高さ5m以上のところから思いっきり落ちたんだから、相当痛いはず。



なのにまだ諦めようとせず女の子は私を睨む。




「私…なんか、楽しくなってきちゃったんだ」





「楽しい!?

相手を蹴落として上に進んでゆく決闘が楽しいと!?」




「そーゆー意味じゃなくて!えっと…そうだなぁ…


……みんなとの練習もそうだけど、苦しくなって痛くなっても、

なんか楽しかった。


なんでかは分からないけど…


スポーツ以上に、コンピューターゲーム以上に!」





『勝者、二階堂椿』




心などこもっていない声が私の勝利をつげる。


ブブ、と震えたポイセを見るとWINという文字が光っていた。




「……私にもいつかそう思える時がくるんでしょうかね」




ポイセを覗いた女の子はため息をつきながら、元の大きさに戻った泡立て器を持ってドアの方へ向かう。




その背中は、なんだか寂しそうに見えた。





「おーーい!!!」




「み、みなさん!?」




けどそんな寂しそうな背中も、一瞬で消えた。



決闘が終わったことで消えたのか、特別な能力の効果がなくなった闘技場は観客席も見えるように。



すると最前列に、エプロンの姿をした何人かの人や、料理人さんみたいな格好をした人がたくさんいて。




「頑張ったね!お疲れ様ー!」



「みんなでケーキ作って、お疲れ様会開こうねー!」



「大丈夫!僕たちも練習に喜んで付き合うよ!!」





降りかかるそんな応援の声に、女の子は…涙を流していた。




涙を流しながらドアの向こうへ消えた女の子の背中は、決して寂しそうなんかじゃなかった。



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