鬼呼びの花嫁
そこまで言うと、お母さんはわたしの髪を撫でた。
「うん、わたしも一度だけ見たことがあるから」
子供の頃に。
と、否定はしなかった。
ただ微笑んでくれた。
それだけで気持ちは軽くなる。
「さあ、ご飯食べましょ。貧血なら尚更に食べなくちゃね」
「うん」
本当はちょっと違うけど。
カーディガンを羽織って一階で家族みんなでご飯を食べた。
その後、眠れなくて部屋の窓を開けてぼんやりと外を眺めてた。
すると、月灯りのない道に誰かが歩いてくる。
門扉の灯りで僅かに見えた。
「……桜木くん」
ぴく、呟くと彼がわたしの部屋を見上げた。
さっき、確か女のひとのところへ行くって……
黒の瞳から鮮やかな黄金色に変わる。その瞳と合ったような気がした。
「……榊の匂いがする」
「え?」
「藤の匂いも」