鬼呼びの花嫁




桜木くんに一瞬、睨まれた気がした。


風が吹いて髪を巻き上げた瞬間に、桜木くんの姿が消えた。

消えた!?


「なんで俺の名を呼ぶ?」

「え?」

「耳障りで仕方ねえ。呼ぶな」


下の道を歩いてたはずの桜木くんが、ベランダに寄りかかりわたしを見下ろしてた。

いつの間に?


「……呼んでない」

「シてる最中に呼ばれてみろ、勃たなくなる」

「……呼んでない」


桜木くんを呼んでない。
意地悪な桜木くんなんて、


「……藤の匂いがする」

「藤先輩に掴まれたから、だからかな」

「榊の匂いも」

「榊先生は……わたしを掴んだ藤先輩の手を離してくれたからだから」


藤先輩は苦手。
なんだか怖いから。
榊先生が戻ってこなかったらきっと家族の記憶を操って無理やりに部屋に上がり込んでた。


「……部屋に榊の匂いがある」

「それは倒れたわたしを部屋に運んでくれたから」



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