純情女子と不良DK
「お、おまたせ…!」
「あれ、結構はやかった」
「めっちゃこぎました」
「危ないから普通に来てください」
約10分後、駅につくと当たり前だが既に待ち合わせの場所に優聖はいた。
あまり待たせるのもよくないと思い、急いで自転車をこいだせいで若干息が切れて汗も滲んでいる葉月。
「あ」
「…?」
「髪、めっちゃ乱れてる」
息を整えて顔をあげた葉月を見て優聖は葉月の乱れた前髪に手を伸ばして触れて来た。
本人はただ直してやろうという親切心で触れてきたのだろう。そこに変な、深い意味なんて無いし優聖のその行動はとても自然な動きだった。…のだが。
「!?」
「えっ」
何の躊躇いもなく自分の髪に触れて来た優聖に、葉月はギョッとして反射的に身を思い切り引いた。
行き場を失った優聖の手が静かにおろされるのを見て申し訳ないという気持ちと恥ずかしさが混じる。
そんな反応を見せる葉月に、もしかしたら自分に触られたのが嫌だったのかと思った優聖はすぐに「すいません」と謝った。
触れられたことが嫌とか、そんなのでは決してない。ただ驚いただけだったのだ。誤解を解こうと思い、葉月はぶんぶんと首を左右にふった。
「あ、や、違うよ!うん!嫌だったとかそんなんじゃないよ!ちょっとびっくりしただけで」
「俺あんまこういうの気にしないでやっちゃうんで、ほんと苦手だったら言ってください」
「…へ、へぇ~。結構誰にでもやるんだ…?」
「変なとこあったら直したくなりません?」
これは絶対数多くの女の子を落としに落としまくってるんだろうなぁ…。なんてそんなこと思って目を細めた。
ただでさえイケメンなのだ。この男、自分のスペックを分かっててそんなことをやっているのだろうか。まあ多分本人のこの様子からして純粋な心でやっていることなのだろうけど。
……もし分かっていてやっているのなら、恐ろしい子だ。
「とりあえず、前髪えらいことになってますよ」
「直す直す!…どお?直った?」
「直った直った」
なんだか変に緊張してしまい目線が泳ぐ。
大人なんだから平常心だ。冷静に。大人らしく、大人の女性らしく!
「お見苦しいところ見せちゃってごめんなさいね。失礼したわ」
「誰だよ」
あ、ダメだった。
クールに大人の女性らしく上品に振る舞ってみようとしたのだけれど、逆に「どうしたお前」的な目を向けられてしまった。
これは失敗だ。そもそも大人の女性らしさってなんだ?と、大人の女でありながら全く分からない葉月。
誤魔化そうと、大きく咳払いをした。
「ところでどこのファミレスで勉強する?」
「そこの目の前のでいいんじゃないすか?」
「近いもんね。じゃあそうしよっか」
すぐ目の前にあるファミレス。
よくよく考えたらそんな駅近のファミレスなんかに行ったら絶対知り合いの一人や二人に会いそうな予感がする。今更気が付いた。
もし高校生男子と二人でいるところなんて誰かに見られたら絶対変な誤解を招きそうだ。
……いや、でも別にやましい関係なんかじゃないんだし、そこまで気にしてしまうほうがかえって誤解を招きやすいかも…?
一人であれこれ考えながら、唸ったり首を横に振ったりしている葉月を優聖が小首を傾げて怪しそうに見ていた。
その視線に気が付いて、慌てて「何でもない」と笑う。
「成瀬君、自転車じゃないんだね?」
「パンクしたんですよ…。直しに行くのも怠くて」
「それは大変だぁ。まぁでも家から学校までは……」
「30分くらい」
「そうだね!」
30分歩くくらいどうってことはないが、やっぱり自転車は無いと不便なのは変わりない。直しに行かないと、と面倒くさそうに呟く優聖に小さく笑った。
そんな話をしていると既にファミレスの前まで来ていた。
「あ!私自転車止めてくる」
「はやく~。さーん、にー」
「時間制限!?い、急ぎます…!」