純情女子と不良DK
「だから、日高さん毎朝起こしてくれたら助かるな~」
「……え?」
「…ダメ?」
突然の言葉に思わず固まった。…起こす?毎朝?……誰を?
「成瀬君を?」
「いや他に誰がいるんですか」
「そ、そうだよね」
うん、それは聞かずとも分かっていた。けどあえて聞いてしまった。
毎朝起こすって、電話をかけるということ…だよね?葉月はあれこれ考える。
それって、彼氏彼女がやるやつなんじゃないのだろうか……。優聖自身、多分深い意味があって言ったわけではないのは分かってる。分かってるけれど。
「む、無理です」
「だよね。うん、まぁ断られると思いました。日高さん電話とか苦手そう」
「えっ、そんなことないよ。普通に友達と電話とかするもん」
「じゃあ俺限定か」
「はい?」
いまいち、優聖の言いたいことが理解できず小首を傾げた。
「いやだって俺と電話するときなんかめっちゃ、どもるじゃないですか。緊張してる感じするし」
それを聞いた途端、顔が赤くなるのが分かった。やっぱり電話越しでも分かってしまうほど、自分の緊張が相手に伝わっているということだろう。
優聖とはほんの数回ほどしか電話していないし、それは仕方ないことだ。でも多分それが彩音やひまりだったら緊張なんてしなかったと思う。相手が異性だからそうなってしまうのだ。……なんて、言えるはずもなく。
「別に成瀬君が嫌いだからとか、そういうのじゃないからね!全然!うん!」
「まぁ嫌われてたらこうやって一緒に勉強とかしてくんないか」
「うんうん!」
だから嫌ってないからね!と、念をおせば必死すぎだと笑われてしまった。
「……っと、いけないいけない!ほら、さっそく勉強始めよう!」
「なんかめんどくさくなってきたんで、このまま普通に喋りません?」
そう言った優聖に葉月は思わずギョッとした。そして即座に首を左右に振る。
「ダメだよそんなの!それじゃあ何のためにここに来たか分んないじゃん。成瀬君が勉強見てって言いだしたんだから、しっかりやって!」
「わぁー、真面目~」
「真面目じゃありません。はい、では古典から」
「はいはい」
怠そうに鞄から教科書とノートを取り出す優聖。
自分から勉強をまた見てほしいと言ったわりに、全然スイッチが入っていない様子に葉月は小さく息をはいた。普通に喋って終わっては、自分がここに来た意味が無くなる。今日もしっかりみっちり、やるからにはきちんと教えなければ、と意気込んだ。
****
「だぁー!無理、もう無理疲れた飽きた」
約2時間が経った頃。当たり前の如く勉強なんて好まない優聖には限界が近づいていたらしく、シャーペンを放り投げて思いっきり背もたれに寄り掛かった。
その姿に葉月は小さく笑った。この2時間、無駄な話はせずにひたすら試験対策をしていたので、疲れるのも無理はない。
難しい顔をしながらも自分の説明をしっかりと聞いてくれていたし、それなりに理解もしてくれていたから、多分補習は免れると思う。
「もうこの辺にして、勉強終わろっか。みっちりやったし、きっと赤点は取らないよ」
「日高先生頼りになるっす」
「それほどでも~。…もう18時半だね。片してそのまま帰ろうか」
「え、やだ」
「……ん?」
………やだ?
思わず目を丸くした葉月。嫌だ、とは帰るのが嫌だ…ってことだろうか。
えーと、うーんと、と困っていると優聖はそのまま端にあるメニュー表を手に取った。
「腹減ったんで、なんか食べません?」
「え?あ、…ああ…。そう、だね…!うん、そうしよっか。私もちょっとお腹減ってた!」
なるほど、お腹がすいていたから帰りたくない。そういうことだったのか。
やっぱり高校生。まだまだ可愛い子供だなぁ、なんて胸をほっこりさせて口を緩めていれば「なんか勘違いしてる」と言われた。
何を勘違いしてるのか、そう聞けばそれには答えてもらえなかった。