純情女子と不良DK
注文したメニューがそれぞれ来て、それを口に運びながら優聖と葉月は他愛のない話をしていた。
主にお互いの愛犬についてだが。優聖も相当な犬バカ、いや、親バカだと思う。
「つーか、アイツら俺が1対1で日高さんに勉強見てもらうこと知ったらぜってーうるさいだろうなぁ」
「あっ、それは大丈夫じゃない?私、明日ひまりちゃん達の勉強見る約束してるから!」
「は?」
まるで、そんな話聞いていないとでも言いたげな優聖の顔。だって言ってないし。
優聖から約束の日を取り付けられたすぐ後に、ひまりからメールが来て彩音と自分の勉強をまた見てほしいと言われたのだ。もちろん、快く受け入れた。
勉強に熱心なことはいいことだ、うんうん、と一人頷いて感心していれば優聖はムスッとした表情で葉月を見ていた。
…何か気に障るようなことを言っただろうか。考えてみるも思い当たることが無かった。それでも相変わらずムスッとした表情は変わらないので、葉月はたまらず「どうしたの?」と聞いた。
「それ、もしかして良介も来るんですか」
「え?うん来るよ?」
「はい俺も行くー」
「え、ええ?」
良介と聞いた途端、余計に不機嫌そうな顔になった優聖に葉月の頭上にはいくつものハテナマークが浮かんだ。行くと言ったって、今日この時間でもう随分みっちりやったはずだけど…。
自分もその勉強会に行くと言いだした優聖に驚きつつも、彼には申し訳ないが言わなくてはならないことがある。
「でも成瀬君、もう大丈夫だと思うけどな…私がまとめた要点書いたノートをちゃんとやればまず補習は無いはずだし」
「念には念をって言うじゃん。俺も行きます」
「……えーと」
「…そんなに俺が来られんの嫌ですか」
「いやいや、そういうわけじゃないよ!」
「じゃあ何」
なんだろうこの威圧感!
ムッとしながらこっちを小さく睨む優聖にとてつもない圧力を感じる。「さっさと言えコラ」とでも言うようなオーラだ。言い難いが、仕方ない。
「彩音ちゃん達に、成瀬君は呼ぶなと…」
「……はぁ?」
予想通りの反応である。
「彩音ちゃん達に、成瀬君と二人で勉強すること言ったらズルいズルい言われてね…。じゃあうちらは優聖抜きでやっから~みたいな感じになりまして。伝言、“お前は来んな!”だそうです」
「うっぜぇ、ぶっころそ」
「成瀬君、目が本気で怖い!」
一気に不機嫌オーラ全開にした優聖に葉月は隠れるようにメニュー表を盾にした。
迫力満点、威圧感満点!この人は絶対に怒らせてはいけない人物ナンバーワンかもしれない。自分も気をつけなれば…そう思っていると、盾にしていたメニュー表を取られてしまった。
「んな隠れなくても日高さんには何もしませんよ」
「それでも物騒なこと言うんじゃありません!成瀬君が言うと怖さやばいから!」
「そんなにー?」
もちろん優聖は普通に笑ったりする子だ。
でもさっきのような不機嫌オーラはとても近寄りがたいものがある。こうして関わり合ってなかったら多分即刻逃げていたに違いない。
それでもやっぱり、何度会っても何度見ても、優聖はかっこいい。うん、何度も言うけど、かっこいい。
少し癖のある髪の毛。片耳にしてるシンプルなピアスが良く似合ってる。肌だってすごく綺麗だし、背だって大きい。ここまで容姿端麗の男の子を実際に見るのは優聖が初めてだと思う。
「いや見すぎじゃね?」
「は…!ごめん!」
「もしかして見惚れてたとか~?」
「え、うん。ほんと成瀬君ってかっこいいよね。絶対モテるでしょ」
素直にそう口にすれば優聖は目を丸くして驚いたような顔をした。
こんなのクラスの女の子はおろか、学校中の女の子は放っておかないんじゃないのってくらいだ。
もし自分が優聖と同じ年齢で同じクラスだったら絶対近づかないけど。いや、そもそも近寄れないと思うけど。
「急に何言ってんすか…」
「いや、絶対モテるね!そのルックスでモテなかったら絶対おかしい」
「なんかめっちゃベタ褒めしてくるこの人」
自分は思ったことを素直に述べただけ。
褒めているというのに何だか嫌そうな表情をする優聖。否定しないということは、つまりそういうことだろう。口もとに手を当てて、わざとらしくニヤニヤとすれば睨まれてしまった。