純情女子と不良DK
そんな他愛ない話をしているとお店の入口から若い集団が入って来た。
特に気にすることなく優聖と話していると、突然その集団の一人が葉月に「あっ」と声をかけてきた。
その声に驚いて顔を上げれば、葉月も目を丸くして「あっ」と言葉をもらした。
「は、お前何してんの?」
「よ、よよ洋平…!」
そこにいたは、洋平だった。
そういえば洋平はよく大学の友達をここを利用していたんだった。鉢合わせる可能性があることくらい分かったはずだ。
洋平は葉月だけならまだしも、その向かいにいる優聖に目をやり眉を寄せた。
「洋平知り合いー?」
「あー、うん。先行ってて!」
「おうー」
一緒にいた友人達に先に行くよう促して自分はその場にとどまったままの洋平に葉月は変に緊張してしまった。からかわれるのだろうか…。なんで高校生の男の子と一緒にいるんだって、不思議に思うに決まってるし。
そんな洋平の顔は、不機嫌そのもので思わず固まってしまった。
「誰、それ。高校生?しかも…南扇?なんでお前が南扇の奴といんの」
「あ!えっと、色々あって知り合って…」
「色々って?」
「ドッグランどでよく会うの。それでまぁ…。勉強を教えてるところでして」
「勉強教えるほど仲良くなったの?お前が、南扇の後輩くんに」
「な、仲良く…?」
仲良く…なってるのだろうか。
というか、なんで洋平がそんなにも不機嫌になってるのかが分からないし、ぐいぐい質問してくるので少しおされぎみになってしまった。
自分でもそこは不思議だなと思うくらいだし。
まさか、4つ離れてるとはいえ同じ高校の後輩にあたる男の子とこうやって一緒にいるんだから。
高校当時だって、洋平以外の男の子と一緒にいること全然なかったから尚更だ。
なんだかんだ優聖とは連絡先も交換して、家にまでお邪魔したうえに今日もこうして約束して勉強を教えてるし、どうなのだろう。仲がいい……とはまた違うのかもしれない。
「仲いいですよ。俺と日高さん。めっちゃ」
「えっ」
「は?」
それまで口を開かなかった優聖から出た言葉に葉月は目を丸くさせ、洋平は眉間に皺を寄せた。
優聖は頬杖をついて変わらぬ表情で洋平を見上げていた。そしてそのまますぐに葉月に視線を戻す。
「だって家に来たくらいだし。仲良しでしょ。違うんですか」
「……ち、違くない…ですね」
自分と優聖とじゃ、歳の差があるし仲がいいとかそんなの気持ち抱けるのかな、なんて思っていたけれど、優聖は自分のことを仲のいい一人だと認識してくれているらしい。
それが素直に嬉しくて、やっぱり不思議な感じがした。
なんだか照れ臭くて伏し目がちに笑っていると頭上から物凄い殺気のようなものを感じて顔を上げれば洋平が怖い笑顔で葉月を見下ろしていた。
「家に、行っただァ?」
「ひっ!」
「ちょっーと俺もその勉強会交ぜてもらおっかなぁ~♪」
「どーぞ」
「…なんなのその澄ました顔。腹立つなガキのくせに」
「顔に関してはどうすることもできないんでなんとも」
「うわもうなんかムカつく」
ドカッ、と葉月の隣に座りテーブルに片肘を乗せて優聖へ前のめりになる洋平はもう喧嘩腰のように見えた。
初対面だっていうのに、ただならぬ険悪な雰囲気を醸し出す二人に葉月はオロオロとするばかり。
なんでこうなったんだ。わからない。
「んで?君たち知り合ってどんくらいなわけ?んん?」
「洋平、どうしたのいきなり」
「数週間ぐらいですかね」
「成瀬君普通に答えていくんだ……」
淡々としてる優聖にも圧倒されてしまう。
この状況、謎すぎる。
「へぇ~……知り合って日も浅いの男の家に上がり込むなんて、葉月お前いつからそんな軽いやつになったんだ?」
「ええ!?や、違うよなんか誤解してる…!家に行ったのだって勉強を教えるためだったし、それに他の子もいたし…」
「他の子って、そいつらも男?」
「女の子と男の子!みんな南扇の子で、すごいいい子だよ面白いし!」
「へぇー」
なんだか今日の洋平はいつもよりツンケンしている。どこか拗ねてるような感じもして、その理由がよく分からず対応に困ってしまう。
そんな様子を見ていた優聖が頬杖をつきながら口を開いた。
「あー、もしかして二人って付き合ってる的なやつですか?」
「………え!?」
予想外の言葉に、変にでかい声が出てしまい慌てて口を両手でおさえた。
今、なんて言ったんだ。付き合ってるって、自分と洋平のことを言ってるのだろうか。いや、それ以外にいないのだけど。
でもどうしたらそうなるんだ。……そう見えてしまってるってことなんだろう。確かに洋平とはすごく仲がいいし、気兼ねなく話せるけど…そういう感情で見たことは一切無かった。それなのに…。
「さて、どうでしょう。内緒でーす」
「はぁ?」
「よ、洋平!?」
それなのに。
否定するどころか、葉月の肩を抱いて引き寄せた。まるで、付き合ってるかのような。そんな突拍子な洋平の行動に驚いて目を丸くさせる葉月。
そして、今度は優聖が眉を寄せていた。