純情女子と不良DK


「ち、違うよ!付き合ってないから!洋平もデタラメなこと言わないで…」

「ちっ」

「舌打ちしないで!」



慌てて弁解をすれば洋平はどこかつまらなさそうに舌打ちをする。
一体何がしたいんだ。高校生相手に張り合ってつもりなのだろうか。



「へー、まぁどっちでもいいっすけど。日高さん彼氏いたことなさそうだし」

「……それすごく失礼じゃない?」



彼氏いたことはこれまでになかったけれど、彼氏がいなさそう、だなんて少し心外だ。
それってどういうことだ。彼氏がいるように見えない見た目をしてるとか、モサすぎるとか、そういう意味で言ってるのだろうか。
確かに自分はそんなに派手ではないし、お世辞にも可愛いとは言えないかもしれないけど。



「あ、なんか変な勘違いしてます?日高さんは普通に可愛いと思いますよ」

「えっ?」

「は?」



ほぼ同時に、葉月と洋平が声を揃えた。
優聖は至って変わらない表情で、そのまま飲み物を飲んでいる。
思わぬ言葉に、葉月の頬に熱が集まった。照れたように俯いてモジモジしだす彼女に洋平はどこか面白くなくてムッとした表情になりながら優聖を睨むが、優聖は涼しげな顔つきだった。



「そーいう、慣れてない感じがいいと思います。彼氏いないのも男が手出しにくいからでしょ」

「えっ!そ、そうなの?洋平、そうなの?」

「俺に聞くなよ…」




目を見開いて隣にいる洋平にも意見を求めようも詰め寄れば、洋平は圧倒されるように言葉をもらす。
まるでいいアドバイスでも受けたかのように顎に手をそえて「ふむふむ、なるほど」と何度も頷く葉月。



「まぁでも、俺はそんなん関係なしに攻めに行きますけどね」

「…?」



その言葉の意味がよく理解できず小首を傾げる葉月。優聖はただ真っ直ぐに葉月を見つめていた。
その途端、洋平が突然席から立ち上がった。そしてそのまま葉月の腕を掴んだかと思ったら彼女を引っ張り無理矢理席を立たせる。
突拍子もないその行動に葉月は驚いて目を丸くした。覗きこんだ洋平の顔は、それはそれは不機嫌そのもので、ムッと口を引き結んでいる。



「帰るぞ」

「えっ、帰るって…私たちまだ……ていうか洋平も友達待たせるんじゃ、」

「いい、平気だよ。とにかく帰るぞ!」

「えええ…」



いきなり現れたかと思えば強制連行か。
無茶苦茶な洋平に葉月は「なんなのどうしたの」と眉を寄せるが洋平の表情は変わらず不機嫌なまま。
まるで敵対心を持つかのように優聖を睨み見下ろせば、優聖もまるで対抗するように冷たい眼差しを洋平に向ける。
なんで、どうしてこんな険悪なの、おかしくない?と、葉月は二人の様子をオロオロしながら見ていた。



「日高さん、今日はありがとうございました。後でメールするんで」

「あ、はい、うん!」

「いい!しなくていい、すんな!」

「ちょっとほんとになんなの洋平…」



そろそろ洋平が鬱陶しくなり、横目で小さく睨む。



「ほれ、金は置いといてやる。ガキは家で勉強してろ」



ドン、とテーブルに二人ぶんの代金を置くとそのまま葉月の腕を引いて歩き出した。
葉月は慌てて優聖の方へ振り返り、口パクで「ごめんね」と謝ると優聖は口角を上げて小さく手を振ってくれた。

見た目は怖いけど、中身はとてもいい子なのに。洋平はどうしてそこまで毛嫌いするような態度を取るのだろうか。それも初対面で。
優聖には悪いことをしてしまったなと申し訳ない気持ちになった。きっと気分を悪くしたに違いない。
メールでもう一度きちんと謝ろう。

……その前に、まずは目の前のこの男の機嫌をなんとか直さなければ。




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