純情女子と不良DK


「おーい」

「……」

「洋平ー」

「……」



ダメだこりゃ。
帰り道、どうにか洋平の機嫌をなおそうと呼び掛けてみるが全く応答してくれなかった。
ただ、こちらに背を向けて歩く洋平の後ろをトボトボ着いていく。
これじゃあまるで、親に怒られた子供みたいじゃないかと口を尖らせた。



「洋平~、洋平さん、………洋平ちゃん」

「それはやめろ気持ち悪い」

「あ、やっとこっち見た」



そう言うと、どこかバツの悪そうな顔をした。
気にせず洋平の隣に移動して歩けば、何故かため息をつかれた。



「なんで怒ってんの?」

「別に怒ってはいないけど…ていうかお前こそ、なんであんな高校生といたんだよ」

「それはさっきも言ったでしょ。ドッグランドで知り合って仲良く…?なって?今に至る、みたいな…?」

「ほぼ疑問系なんだけど」

「だって、なんか不思議で」



疑問系ばかりになってしまうのは仕方なかった。まさか自分が、高校生とこんな風に親しく話したり勉強を教えたりするなんて思わなかったから。
友達、というには少し違うと思うし…愛犬仲間であり、優聖の保護者的な感じで見ているのかもしれない。
それでもあんな風に親しくなったことに嫌気はなかった。



「アイツ、絶対お前に気ある」

「…………はい?」

「お前はそーいうとこ鈍いから分かんないだろうけど俺には分かるんだよ!」

「…い、いや、…いやいやいやいや!何言ってんの?どれくらい離れてると思ってんの?私歳上だよ?そんな風に見ないでしょ」




洋平が突然変なことを言い出したので、葉月は勢いよく顔の前で手を振って否定した。
第一相手は高校1年生。これから恋に部活に勉強に、青春しまくる歳だってのに。こんな歳上の女なんか対象に見るわけがない。
葉月の頭には、優聖が自分を好きになる可能性も自分が彼を好きになるという可能性も微塵も考えていなかった。



「お前は?」

「何が?」

「アイツのこと好きなの?」



葉月は一瞬目を丸くしたのち、すぐにお腹をおさえて笑い出した。



「あっはははは!何いきなり!いくらなんでも、高校生の男の子を好きになるわけないでしょ。私変態になっちゃうじゃん」

「いやちょっと痛い、痛いんですけど葉月さん、ちょっと」

「えー?あぁ、ごめん、あははっ。洋平が変なこと聞くから」



バシバシと叩いていた洋平の背中を謝りながら何度も擦った。
今度は何を言い出すのかと思えば、優聖を好きなのかという質問。これには思わず笑いが出てしまった。だって、ありえないだろう。そんな考えは。




「私は成瀬君のことは好きにならないよ。だって高校生だしね」

「高校生じゃなかったら好きになんのかよ」

「…どうかな」

「………」

「なんでそんな睨むの!」



彼が高校生じゃなかったら。自分と同じ歳で、もしくは歳上だったら。もしそうだったら、どうなっていたのだろうか。
好きに、なるのだろうか。確かなものなんてないし、彼が高校生じゃなかったら好きになるのかならないのか、どちらとは言い切れない。



「確かに成瀬君かっこいいし、間近に来られたり見つめられたりすると緊張しちゃうけど…」



優聖は確かにかっこいい。出会った時から思ったことだ。
見た目は不良っぽくて怖いけど、顔は文句なしのイケメンというやつなわけで。

フワフワした癖っ毛の髪が好きだったりする。色素の薄い大きな瞳が、綺麗だなといつも思うけど恥ずかしさから真っ直ぐは見れない。
冷たいようで本当はしっかりしてて優しかったりする。
そこまで考えて、「あれ?なんでこんな成瀬君のことばっか考えてんだ」と我にかえった。
隣にいる洋平を見上げれば、その顔はさっきよりも不機嫌さが増していて、葉月は慌てる。



「アイツのことかっこいいって思うんだ、へぇ~」

「え、だってかっこいいじゃん!芸能界かモデルやっててもおかしくないくらいじゃない?」

「褒め倒しかっつの」

「あ!洋平もかっこいいよ。成瀬君の次の次の次の次の……次くらいに」

「すごく殴りたい!」




腕捲りをしてこちらに拳を向けてくる洋平に、「キャーこわーい」と棒読みで声をあげる。
そんな彼女に、洋平は軽く舌打ちをして小さく笑みを溢した。



「おっ、機嫌直りましたか?」

「別に最初から悪くなかったしぃ」

「悪かったですぅ。般若みたいだったよ」

「そこまで!?」

「ごめん嘘」



また拳を向けてきた洋平に今度はきちんと謝った。



「でも成瀬君、いい子だよ。見た目が不良みたいだから、危なくないか心配してくれてたんでしょ?大丈夫だよ。だからあんな風に牙剥かないでね、次会った時」

「まず物凄く勘違いしてるし次会う気もさらさらないね!」

「勘違い?」

「俺が不機嫌になってる理由それだと思ってんの?」

「うん」



はぁ、と非常に深いため息を溢した洋平に葉月は小首を傾げた。
てっきり今自分が言った通りの理由だと思っていたのに。そうじゃないならなんだ、と聞いてみるけれど洋平は結局教えてくれず適当にはぐらかされてしまった。




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