願う場所、望む奇跡
あのキス以来、2人きりで話すことがなかった。
母親に迷惑かけるからと、3人でいる時は話した。
だけど、2人になると意識するのか、すぐ自室にこもった。
あながち、キスしたのも悪くなかったかもしれない。
こうやって意識してくれるのは、俺にとって前進したように思えるから。
それでも、こんなところで見られるのは想定外のこと。
悠長にしている場合じゃない。
なりふり構っていられないか。
「義哉くん、結局あの人、誰なの?」
未だ不満そうに言う。
悠弥の名前を出したはずなのに、気づいていないらしい。
「なぁ……少し寄り道しねぇ?」
「え?もちろん!行こうっ」
俺の言葉に、さっきの怒りはどこへやら。
満面の笑みで嬉しそうに言う。
不本意ではあるけど、夏希に知られた以上、のんびりはしていられないから。
早いとこ片づけよう。
噂はいずれ消える。
そんなこと、気にするだけ無駄と思って。
今の状況なら、信用する人も少ないだろうから。