願う場所、望む奇跡
「ただいま」
「お帰りー」
私が帰ってくると、義哉が玄関まで出迎えてくれるこの光景も以前通りだ。
「夏希」
「ん?っ……」
だけど、誰も見ていないちょっとの隙でキスをするようになった。
これはこれで、私は焦るのだけど。
呼び方も、以前通り徹底している。
お母さんの前では姉さんで、2人の時には夏希と呼ぶ。
イケナイコトをしているようで、名前を呼ばれるとドキッとする。
未だに慣れない。
「そうだ、夏希。会社でこんなのもらったけど、行く?」
家族で食事中、お母さんが差し出したのは温泉の宿泊券。
「松本くんと行ってきたら?」
別れたことを知らないお母さんは、平然とそんなことを言う。
私は、どう答えていいか分からず、曖昧に笑うだけ。
券を見た瞬間に出て来たのは、義哉の顔。
無理と分かっていながらも、一緒に行きたいと思った。