願う場所、望む奇跡
朝から計算ミスをしてしまい、書類を全て直すはめになった。
そのため、午後1時半を過ぎるところなのに、昼を食べていない。
だから、心配してくれたのだろう。
「ありがとう」
置かれた缶コーヒーを手に取った。
そして、ありがたくいただく。
「なんか、難しいことでも考えている?」
近くの椅子を引っ張ってきて、松本くんが隣に座る。
そう聞かれたところで、返す言葉なんてなかった。
「相変わらず弟のこと?女の子たちが、今井さんが無視するようになったーって嘆いていたけど」
「嘆いていたって……もう返すのも嫌になって無視を決め込んだだけ」
弟というワードに、少しだけ肩が震えてしまった。
それでも、なんとか頭の中をフル回転させて平常心で答えた。
「まぁ、あれだけ知らないヤツに弟のこと聞かれれば嫌になるよなぁ」
私の微妙な変化には気づかず、笑いながら言う。
私は、ほっとしながら乾いた笑いを返す。