願う場所、望む奇跡
「お帰り」
「あ、ただいま……」
呼び捨てで呼んだのは、他の誰でもない義哉だ。
あの時以来、2人の時には呼び捨てで呼ぶようになった。
あとは、姉弟と知らないであろう学生の前では。
どんな心境の変化があったのか分からないけど、心臓に悪い。
呼ばれるたびにドキドキしてしまって、私の体はもたない。
それでも、家に帰って母親の前だと“姉さん”になる。
相変わらず器用な人だと思う。
「ところで、どうしてここにいるの?」
駐車場、それも家の目の前だ。
わざわざ出て来たのだろうか。
「1度家に帰ってから、悠弥と逢っていたんだ。それで今、帰って来たところ」
そうだよね。
わざわざ出て来るはずがない。
ダメだな。
好きだと気づいてから、小さなことで幸せになったり不安になったりショックを受けてしまう。