願う場所、望む奇跡
「だけど、ただで黙っている訳ないよ」
「え……?」
思わず驚いて、松本くんを見る。
いつもと変わらない笑顔のはずなのに、それが怖くも感じる。
「今日定時後、会社前のカフェで待っていて」
「え?」
「逃げたら……分かるよね?」
耳元で言われたセリフに、背筋がぞくりと震える。
そのまま、松本くんは会議室を出て行ったけど、私は動けないでいた。
私の気持ちがバレてしまった。
けど、黙っててくれると言った。
ただではないけど。
一体、私は何をすればいいのだろう。
まさか金銭の要求じゃないだろうし。
定時後にゆっくり話そうってことか。
逃げたいけど、逃げられない。
全ては、実の弟を好きになった私のせい。
何を要求されるのか分かんないけど、行くしかないんだ。
その後、仕事中は何を言われる訳もなく普通にしていた。
私の頭の中はそれでいっぱいで、結局細かいミスをいくつもした。