願う場所、望む奇跡
そのたびに、松本くんに「頑張れ」と言われるけど、元はと言えば松本くんのせいだ。
全部、定時後に話してくれれば悩むことなんてなかったのに。
なんて、今更言っても仕方がない。
とにかく今は、ミスしてしまった書類を修正するだけ。
定時後の約束に遅れる訳にはいかないから。
そう思って頑張った結果、なんとか定時までに終わった。
「夏希先輩、ご飯でも行きませんか?」
同じように仕事が終わったらしい莉亜が、食事の誘いをしてきた。
「ごめん、今日用事があるんだっ」
松本くんの席をちらっと見たあと、手を合わせて謝る。
松本くんは、自席にもこの部屋にもいなかった。
「えー、そうなんですか?残念」
「ごめんね。また行こう」
それだけ言って、私は出た。
自席にいなかったから、松本くんはまだ仕事が終わっていないのかもしれない。
それでも、逃げる訳にはいかないから。
私は約束通り、会社の前にあるカフェに入った。
もちろん、まだ松本くんは来ていない。