願う場所、望む奇跡



そのたびに、松本くんに「頑張れ」と言われるけど、元はと言えば松本くんのせいだ。

全部、定時後に話してくれれば悩むことなんてなかったのに。


なんて、今更言っても仕方がない。

とにかく今は、ミスしてしまった書類を修正するだけ。

定時後の約束に遅れる訳にはいかないから。

そう思って頑張った結果、なんとか定時までに終わった。



「夏希先輩、ご飯でも行きませんか?」



同じように仕事が終わったらしい莉亜が、食事の誘いをしてきた。



「ごめん、今日用事があるんだっ」



松本くんの席をちらっと見たあと、手を合わせて謝る。

松本くんは、自席にもこの部屋にもいなかった。



「えー、そうなんですか?残念」


「ごめんね。また行こう」



それだけ言って、私は出た。

自席にいなかったから、松本くんはまだ仕事が終わっていないのかもしれない。

それでも、逃げる訳にはいかないから。

私は約束通り、会社の前にあるカフェに入った。

もちろん、まだ松本くんは来ていない。




< 70 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop