幽霊なキミ。
私そっと病室を後にした。
ナオトのお母さんは、待合所で他の患者さんかお見舞いの人か分からないけど、おばさん達と談笑していた。
私が渡した花束は花瓶に生けられ、彼女の前のテーブルに置いてあった。
私が立ち止まると、こちらに気づいて会話をやめてこちらに声をかけてくれた。
「椿ちゃん!もう帰るの?」
私ははい、と答えペコリとお辞儀をした。
「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに。」
「新幹線の時間があるので……。」
私はやんわりと答えた。
おばさんはあらそう?と少しだけ残念そうな表情を見せて
「また、遊びにいらっしゃいね。」
と言った。
もちろん、社交辞令だと分かってるけど、私は少し嬉しかった。
「はい、ありがとうございます。」
私が笑顔で答えると、おばさんも微笑んでくれた。
病室を出ると、夕方のすんだ空気が私の頬を撫でた。
肺の空気を入れ替えるように私は深呼吸をした。
さ、帰ろう。
花束もお土産もなくなって身軽になった私は、直人の寝顔を思い出しながら家路についた。