私の彼氏さま!!
頼まれたものを全て買い終わり、自転車の籠に荷物をいれると予想以上に重かったらしく、車体がぐらりと揺れる。


その自転車を手で押し歩きながら目の前に見覚えのある人の姿を見つけて足を止めた


冷ややかな切れ長の目に、美しい髪。
大人びた雰囲気。



あの日、秋くんとやっていた女の人だった



「5万ね?」


「分かってるよ、行こう」



その会話に耳を疑う。


日は落ちてきて、もう夜はすぐそこまできている。
これからこの時間帯、外に出てきて愛を育む恋人達が増えてきても仕方ないと思う。



けれど、これってどう見ても恋人じゃなくて…



「長倉さん」


「!!」



ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、そこには彼女がいた。



「この事他言したら…分かってるわよね?」



鋭い眼光で睨まれ、びくっと肩がはねる。



「あ…は、い」


「ならいいわ。
そうそう、あなたにいい事教えてあげる」


コツン、とヒールの音を響かせる彼女。



「私、妊娠したの。
もちろん、秋との子よ」


「…え?」



「あれから何回かしてるんだけど、
この前 中で出されちゃって。
でも、お互い愛し合ってるから後悔はしてないけれどね」



「…っ」


絶句する私。
もう、何も考えられない。


くすくす笑いながらお腹を撫でる彼女。
隣にいる男性は目を丸くしていた。


「ナツカちゃん…妊娠してんの?」


「ええ」


「じゃあやめといたほうが…」




するりと男性の首に手を回し、
身体を密着させる彼女。



「いいの。
どうしてもアナタとしたいのよ汰一さん。
それに、私にはお金が必要なの」


その言葉と行動で男性の顔は紅潮し、
うずうずしだした。


「わ、わかった。
じゃあ行こうか」


「ええ。
じゃあね、長倉さん」



2人は腕を組むとラブホテル街へと入っていった。



「…」



秋くん、あの人を妊娠させたの?
子供が欲しかったの?

私には、しなかったのに?
それだけあの人には本気って事?



「何なのよ…っ!!」




イライラと悲しみが混じりあった複雑な感情を抱えたまま、自転車を押し歩く。
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