エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
形はどうであれ、善に秀一郎のことを話した以上、いつかは秀一郎にも本当のことを言わなければいけないと思っていた。
でも秀一郎が父親のことを聞いてこなかったことをいいことに、一日、又一日と先延ばしにし続けた結果が・・・これだ。

もう。何やってるんだろう、私は。
泣きたくても涙が出ないのは、悔しいとか悲しいとか、そういう気持ちが湧いてこないから・・・?

「ごめんな、アキちゃん。秀には言わないって約束破って」
「・・・善」
「ん?」
「今からそっちに行ってもいいかな」
「いいよ。それとも俺が秀をアキちゃんちまで送ろうか?」
「ううん。私が行く」
「分かった。じゃ、住所すぐ送るから、気をつけて来いよ」
「うん」

体から力が抜けていたけど、どうにか立ち上がった。
そんな私を見た両親に、善が父親だと秀一郎が知ったことを話すと、父が一緒に行こうかと言ってくれた。

「ううん、いい。私ひとりで行く」
「大丈夫なの?朗子」
「うん・・大丈夫。秀一郎の声も元気だったし」
「そう。気をつけてね。何かあればすぐ電話しなさい」
「うん、ありがと。じゃ・・行ってきます」

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