エチュード ～即興家族（アドリブファミリー）～

「おねがい・・・社長さん、いえ、マネージャーさんでもいいです。どうか・・・お願いだから今すぐ会わせてください」
「まずは取材の約束を取られてから、またこちらへお越しください」

受付嬢が目配せした先にいたガードマンが、私の方へ近づいてきた。

どうしよう・・・。
ここで帰るわけにはいかない。
あっけなく門前払いされるわけにはいかないのよ！

「おねがい！息子の命がかかってるんです！だから・・離して！おねがい！どうか・・・息子を助けると思って、どうかお願いだから・・・」

必死の懇願が通じたのか。
受付嬢がガードマンを手で制したのが先だったかどうか、分からないけど、私の腕を掴むガードマンの手が緩み、止まってくれた。

「息子さんの命って、どういうことでしょうか」
「今ここでお話することはできません。できれば善本人に直接会って話したいんですが、無理なら、マネージャーさんに連絡を取っていただけませんか。今すぐ」

連絡を取るまでは、てこでも動かない！
という覚悟で、私は受付嬢をひたと見据えた。

私の頑固な決意に根負けしてくれた受付嬢は、フゥとため息をつくと、「社長に連絡します」と言って、受話器を取った。