エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
「たまにいるんだよね。病気の息子がファンで会いたがってるって言ってくる人。武田さんは、子どもをダシに使うような人には見えないんだけど」
「ち、違います!息子は・・・秀一郎は確かに病気で、今入院してます。でも・・・違うんです」
「あ、そう。事情は分かりました」
「いえ。あなたは分かってない・・・」
「いや。あなたに実際、息子がいるのかどうかも分からないが、まぁ、武田さんが演技してるとは思えないから多分いるんだろう。とにかく、あなたがしていることは、ただの迷惑行為だから。警察に突き出す前に、自分で帰った方がいい」

踵を返して歩き出した社長さんのスーツの袖を、私は咄嗟に掴んだ。

「ま、待って・・待ってください!お願いです」
「いい加減にしてくれないか。俺、あんたみたいな人に関わるほど、暇じゃないんだから」

無表情の社長さんから、静かな怒りを感じた私は、つい手を離してしまった。
社長さんは、そのままスタスタと歩いて行く。

どうしよう。このままだと・・・!

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