エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
頭を下げて、声を殺して泣いていた私の向かい側に座っていた誰かが、スクッと立ち上がった。

「・・・なんだよそれ・・・」と呟く善の低い声が、上の方から聞こえる。
ということは、立ち上がったのは・・・やっぱり善だったか。

「参ったな・・・」
「マジで」
「だな」
「だから武田さん、そんなに大きな爆弾投げるなって言っただろー?」
「・・・すみません。ほんとに・・・ごめんなさい・・・」
「アキちゃんのせいじゃないだろ?秀(しゅう)が病気になったのは。で、俺はまず、検査したらいいんだよな?」

その言葉につられるように、私は顔を上げて善を見た。

「じゃ・・・」
「何だよ。俺が見殺しにすると思った?しかも自分の息子を」
「ううんっ!そんなこと一度も・・・思ったことない、うぅっ、ありがと、ぜん・・・」
「何が」
「・・・信じてくれて」
「アキちゃんは人を悪い意味で利用したり、騙すような女じゃない。だろ?」
「う・・・うぅ・・・っ」

また顔を伏せた私は、人前で大っぴらに声を出して泣いた。

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