エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
エレベーターの中で、ようやく二人だけになると、善は苦笑を浮かべながら、「ごめんな」と、私に言った。

「用心してたんだが、記者さんに感づかれたみたいでさ。巻くのに苦労して、ここに着くのがちょっと遅れた。ごめん」
「ううん・・・」
「みんなに協力してもらったし、そっちはもう大丈夫だから」

・・・たぶん善は、この日のために、予定を調整したり、変更したり、キャンセルしたに違いない。
それに、善がさっき言ったように、記者さんに感づかれないように用心して、スキャンダルに発展しないよう、色々と奔走してくれたんだろう。

善と再会せざるを得なかったこと、そして再会したことで、このことに善がかかわらざるを得なくなってしまったことに、改めて申し訳ない気持ちが湧いてくる。

「こっちこそ・・・ごめんね。色々」
「いいって。アキちゃんのせいじゃないんだから」

と善が言ったとき、エレベーターが止まり、扉が開いた。

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