エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
移植手術は無事執り行われた。
ドナーである善は、一晩だけこっちの病院に入院することが、事前に決まっていた。

人気ロックバンドのドラマーという善の立場上、もちろん個室。
部屋に入ることができるのは、看護師さんも含めて、ごく限られた一部の人たちだけにするため、表向きは面会謝絶扱いになっている。
しかも、病院側スタッフ全員に、「ライズのゼンが骨髄移植のドナーになって入院している」なんて口外するなと禁止令が出されている徹底ぶり。

善だけじゃなくて、他のライズのメンバーや、秀一郎、そして秀一郎の身内である私たちのプライバシーを保護するためには、必要なことなのだと分かってはいるものの、やっぱり善と私たちの、立場の違いを感じる。

私はフゥとため息をつくと、善がいる病室へ向かった。


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