エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
もし、私が「妊娠した」と告げていたら・・・。
起こらなかったことを、あれこれ言っても仕方がないけど、この人から秀一郎の10年の歳月を奪ってしまったことは、起こった事実だ。

「ごめんね」
「・・・なんですぐ言ってくれなかったという気持ちは、正直まだある。でも、もし聞いてたら、俺は夢を諦めて、堅実な弁護士になって・・・今のライズは存在してなかっただろうな。アキちゃん」
「・・・はい?」
「俺、できるだけのことはする。治療費も全額払う」
「え!で、でも、それは・・・」
「俺には払えるだけの稼ぎあるから。アキちゃんはもう、そういう心配しなくていいよ」
「う・・・・ん」

・・・いけない。
ここで泣いたら・・・。

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