エチュード ～即興家族（アドリブファミリー）～

「あなた・・私から秀一郎を取り上げようとするつもりなんでしょう！だからもう、これ以上あなたとかかわるべきじゃなかったのよ。やっぱり秀一郎に会わせなきゃよかった・・・」
「アキちゃん。落ち着いて。俺の目を見て」
「いやっ！離してよ！」と言っても、善は手を離そうとしない。

でも、もし善が今手を離したら、私はその場に崩れ落ちていただろうから、離してもらわなくてよかったのかもしれない。

「アキちゃん落ち着いて。ゆっくり呼吸する・・・そーそー」
「うっ・・・うぅ・・・」　
「アキちゃん、俺が言うことをよく聞いて」
「う、ん・・・」
「俺はアキちゃんと秀を引き離すなんて、そんなことは絶対しない。そんな気全然ないから」
「・・・ほんと？」
「ホントにホント。でも、秀一郎という息子がいるという事実を知ったからには、秀と完全に無関係でいる気は、俺にはない」
「だ、だから・・・それは私が望んでることじゃないの。父親だからって理由だけで、中途半端に秀一郎にかかわってもらいたくない・・・」
「俺だって中途半端にかかわる気はないよ」と言う善を、私は涙を流しながら仰ぎ見た。