エチュード ～即興家族（アドリブファミリー）～

「おなかの子の父親が誰かは、絶対に言わない」という私の主張を、両親は渋々ながら尊重してくれた。
兄はかなりしつこかったけど・・・。

「相手は所帯持ちか」
「違うよ！」
「じゃあ病人か」
「違います」
「まさかおまえ、無理矢理・・・」
「違う違う！絶対違うから！！」
「そうか」

ごっつい顔に、心底ホッとした表情を浮かべている大柄な兄を見ていたら、少しだけ良心の呵責にさいなまれた。

「ごめん、お兄ちゃん。相手のことはもう・・・聞かないでくれるかな。私は誰にも言うつもりないから」
「あー！わーったよ！ったくおまえは。頑固なところは誰に似たんだよ」

ブツブツ言いながら、私の頭をなでる兄の手つきは、すごく優しい。
これ、お父さんと同じだ。遺伝かな。
と思ったら、なぜか私の目に涙がじわっと浮かんだ。

「いいか朗子。これからは俺がおまえらを守ってやる。一人で抱え込む必要はない。遠慮せずに俺を頼れ」
「・・・ありがとう」