一度でいいから好きだと言って


「ちはや、コーヒー入れて」

これもいつものこと。
少し濃い目のブラック。

斯波さんのカップにコーヒーを注ぎ、窓辺の自分の席に座り図面を見ている彼に手渡す。

「サンキュ」

「どういたしまして」

「ちはや、オレ7月に日本発つわ。せやし、あとひと月程で研究室来なくなる」

「・・・・・・・・・・そうですか」

少し切ない気分になる。

「寂しい?」

「そうですね・・・・・・・・・・」

「お?素直だね」

斯波さんが瞳を合わせて真面目な顔をした。

「ちはや」

いつもより少し低い声で呼ばれる。

「おはよーございます!」
学生が何人か入ってきて、わたしたちの会話は終わった。

今思うと何かが始まりそうで始まらない、そんなもどかしい関係だったような気がする。
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