一度でいいから好きだと言って
甘い言葉を期待していた訳じゃないし、何かが始まる予感もない。
相手はまた海の向こうに行ってしまう人。面倒な処女を捨てられただけでも良かったじゃないか。
「いやあー、綺麗な人やなあ。さすが面食いの陸斗の紹介や」
院長はそう言ってカラカラと笑った。
「わたし、採用していただけるんですか?」
「うん、採用。陸斗のお墨付きやったら間違いないし。今月末までに引き継ぎしてね。事務的なことは事務長に聞いて」
「ありがとうございます。そしたら来週からよろしくお願いします」
深く頭を下げて院長室をから出る。
外で陸が背中を壁に預けて立っていた。
「ありがとうございました。採用やそうです」
「そう、良かった」