一度でいいから好きだと言って
「かったいなあー。」
「勤務中ですし雇用主のご子息ですから」
背中を向けてコーヒーメーカーをセットする。
大丈夫。
わたしはもうあの頃みたいな小娘じゃない。
斯波 陸斗
わたしの初めての男。
わたしの未練。
わたしの後悔。
「なあ、なんでそんな結婚したいの?そんな結婚願望強かったっけ?」
コポコポとコーヒーメーカーが音をたてて
部屋の中にコーヒーの匂いが充満する。
この男と密室に2人きりは息が詰まる。
「・・・・・結婚願望やなくて子供が欲しいのよ」
「別に今30代後半で初産なんて珍しくもないやろ」
「一人だけやなくて、産めるだけ。生産年齢のリミットがただでさえ近いから焦ってるんです」