一度でいいから好きだと言って


「生産年齢ねえ・・・・・」

「で?今回はどのくらい日本にいるんですか?」

コーヒーカップをソーサーに置く。
この男はブラックで飲むからミルクも砂糖も用意しない。

「もう一生日本かな」

思いがけず近いところで声がして心臓が跳ね上がる。

振り返るとすぐそこに陸がいる。

「近い!」

陸がまた一歩距離を詰める。

一歩後ずさると背中が壁にあたる。

「今、これ流行ってるんやってね。『壁ドン』って言うんやって?」

陸がわたしを閉じ込めるように両手を壁につく。

「・・・・・・・・・・ふざけてると噛み付くわよ」

「噛み付いてよ」

顎に手をかけられて上を向かされる。
知り合った頃から変わらない端正な顔。

30を過ぎて色気も加算されて、無駄に男前に磨きをかけて・・・・・
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