一ノ瀬さん家の家庭事情。
「一ノ瀬…」

久住君は再びあたしを抱きしめた。

鼻をすする音が聞こえる。

もしかしたら、泣いてるのかもしれない。

それくらいのことが、あったんだ…

そしてどれくらいだった頃かな。

「中学のとき、何があったかは葉か帆華から聞いたほうがいい。俺は俺よりの話をしてしまうかもしれない。」

そして時計を指さした。

「まだ、間に合うかな?」

針は七時半を指していた。

後夜祭は八時まで。

きっとそろそろ片付けに入っている頃だろう。

だけど、あたしは諦めたくない。

「行ってくる!」

あたしは外へとかけだした。

息を切らして、時計台の前に辿り着く。

…やっぱり、いるわけないよね。

だってこんなに時間、過ぎてるもん。

きっと嫌われちゃったかな…

「浅丘君のことが好きなんだ。」

その可愛らしい声が、あたしの体をその場に硬直させた。

目を凝らしてみてみると、そこには二つの影。
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