一ノ瀬さん家の家庭事情。
その声は教室内でよく聞いた、樹里ちゃんの声。

そしてもう一人は、浅丘君。

それから二つの影は重なった。

あたしはその場から逃げ出した。

校舎に戻って、教室のドアを開けた。

「あ、一ノ瀬、会えたか…?ってどうした?」

いつのまにか目からは涙が溢れでていて。

あたしは久住君の質問には応えず、鞄を手に取ると無我夢中で走りだした。

走って走って、倒れるようにして玄関に入るとりっちゃんの声かけも耳に入らなくて、そのまま二階の自分の部屋に入るとベッドに倒れこんだ。

さいわいまだ玲は学校から帰ってないみたい。

そして頭がだんだん冷静になってくる。

浅丘君、樹里ちゃんと…

あたし、じゃあ失恋しちゃったってこと?

少しでも期待していたあたしはバカだ。

勝手に舞い上がっちゃって。

浅丘君はただ、同じクラスだから、同じバスケ部だから、それだけなのに。

「…愛?大丈夫か?」

ドアの外からりっちゃんの声。
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