一ノ瀬さん家の家庭事情。
あたしはその後を慌てて追いかける。

どうしよう…

だって、デートなんて夢のまた夢の話だと思ってた。

そもそも高校生活でこのあたしなんかに彼氏ができたってこと自体が犬が喋り出すくらいの、玲がお笑い芸人になるくらいの、優兄が不良になるくらいの、そんな奇跡的なできごとなのに!

(優兄のは奇跡ではない)

廊下の端まで来た浅丘君の足は止まったけど、体は向こうを向いたまま。

もしかして怒らせちゃった?

あんな無神経なことしちゃったもん。

付き合ってることみんなに知られたくないよね?

みんなに人気者の浅丘君とあたしなんて釣り合ってないもん…

やだ、どんどんネガティブに思考がいっちゃう。

そしてどんどん涙腺は弱くなってきてる気がする。

「一ノ瀬…って何で泣くの!?」

「ご、ごめんねぇ~…あたしっ、…デートなのかなって嬉しくて思わず大声で言っちゃって…」

すると浅丘君は自分の髪の毛をクシャッとした。
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