一ノ瀬さん家の家庭事情。
「別に。何にもない。」

なにか、かくしてる?

お父さんの部屋に、何かあるの?

「じゃあ、いい。自分で行くから。」

あたしもお父さんの部屋に行けばわかることなのかも。

椅子から立ち上がって、部屋を出ようとすると、急にものすごい力で腕を引っ張られた。

あたしの腕を掴んでいたのは、まぎれもなく玲の手で。

「…何でもないって言ってんの。行かなくていい。」

冷たい目で、低い声で、こんな玲、初めて見たかもしれない。

その細い体型からは想像できないほどの力であたしの腕を掴んでいる玲。

「なんで?そこまでして止めるの。」

「いいから、行くなって。」

そんなに言われたら、ますます気になってきちゃう。

本当に、何なの?



「ただいまー!愛、玲!帰ってるんだろ?」

二人の間に変な重い沈黙が流れていたのをたち切ったのは、いつもどおりの優兄の穏やかな声。

その声にはっとしたように、玲の手があたしの腕から離れた。
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