All I have to give
「新作だって言うから買ってみたけど、お前白って感じじゃねぇじゃん?けど、着てみると案外イケる。まぁ、俺のセンスが良いってことだな」
「それはどうも」
誉められているのに、何故か嬉しくないのは。
結局この人の自画自賛だからだろうか…。
「孫にも衣装って言うし」
「………」
怒ったり、機嫌良くなったり…。
ふぅと溜息に似た息を小さくついて。
一体どこへ向かっているのだろうと、外に目を向ける。
もしもあの時、彼に出逢っていなければ、私は今もこの街のどこかを彷徨っていただろうか。
スクランブル交差点で青信号を待つ人の群れを見ながら、そんな事を考える。
まさか、お金持ちの謎の男のタワーマンションで家政婦をやるなんて…
こんな高価なワンピースを着てハルの隣にいることが、どんなに可能性の低い偶然だったか…
「あー…もう14時半過ぎてんじゃねぇかよ…」
地下駐車場に車を停めて、左腕を確認したハルはまたムスッとした表情を浮かべる。
ワイシャツから覗く腕時計は、世界に三個しかないんだとかこの前嬉しそうに私に話していたっけ。
「ほら、さっさと行くぞ」
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