All I have to give
「よく、来るんだ?」
「んー、まあそうだな。夜の方が多いけど」
店内はジャズが流れていて、初めて来るお洒落なバーに胸が弾む。
「好きなの、食えよ」
縦一枚のメニューを私に向けて、ハルはタバコに火を点けた。
「そういやこの前、カズとアミが来たよ。ハルトに会いたがってたぞ」
おじさんが水の入ったグラスを置きながら言う。私はメニューに目を落としたまま、迷っているふりをした。
なんとなく、ハルのプライベートを聞いてはいけない気がして…
「そうか。暫く会ってなかったからな」
「ヒヨリちゃんはまだ…」
「マスター」
ハルがいつになく低い声を出すから、思わずメニュー越しにハルをチラッと見てしまう。
おじさん改めマスターは、ハの字に眉を歪めて"あぁ、悪いな"と苦笑いした。
ヒヨリって人で、こんなにも空気が凍りつくなんて…
「決まったんか?」
「え、あ…うん。ハンバーグで」
「ふっ、やっぱガキだな」
ムッ…。好きなの食えって言ったくせに。
マスターは"了解"と笑顔を見せると、カウンターへと戻っていった。
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