All I have to give
紅いルージュ



真っ白いワンピースを脱いで、丁寧にハンガーにかけた。


「…疲れた」


ソファに座り、小さく溜息を吐く。テレビもつけずにボーッとしていると、次第に睡魔が襲ってくる。


そのままソファに身を委ねて、私は深い眠りについてしまった。










小学5年生の時だった。


初めて授業参観に来てくれたあの日。


嬉しくて、友達に『ユナのお母さんも来るよ』って話したっけ。


なのに…。


「あれ、ユナちゃんのお父さん?」



お母さんは付き合っていた男と一緒に教室へ入ってきた。



期待でいっぱいだった胸の奥が、ヒリヒリと痛む。



「ユナ、頑張ってね?」


明らかにお母さんよりも若いその男は、茶髪で派手なスーツを着ていた。



私はその日、挙手もせずただ授業参観が終わるのをボーッと待っていた。皆、良いところを見せようと一生懸命に挙手をするのを、絶望的な瞳で眺めて。



パシンと乾いた音と、頬に鋭い痛みが走った。


帰宅した私を待っていたのは、酒にまみれたお母さん。


「あんたのせいでっ」



「私は恥をかいたのよ」



恥をかいたのは、私の方なのに。

涙さえ出なかった…。




「なんて目をするの、あっちへ行きなさい」



一度だって抱き締めてもらったことなんてない。

いつだって私に無関心。"えらいね"って髪を撫でられたこともない。


私って…




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