All I have to give


二日間寝込んだ私は、体調もすっかり良くなった。

ハルに風邪を移してしまったんじゃないかと、冷や冷やしていたが今のところ元気そうだ。


「おはよう…」


「お前、大丈夫なんか?」


朝ご飯をダイニングテーブルに並べていると、ハルがリビングに入ってくるなり眉をひそめた。


「うん、大丈夫」


「そっか…無理はするなよ」


何となく、気まずくてキッチンへ逃げる。


鼓動が速くなって、熱に浮かされたのはハルのせいじゃないかと思うくらい…。


「逃げたってムダ」


「えっ、ちょっ…」


冷蔵庫を背に、ハルに追いつめられる。

近づいてきた唇。

朝からキスをされて、私の頭は彼でいっぱいになって何も考えられなくなる。


「…ズルいよ」


「何が?」


「病み上がりなのに」


意味の分からない言い訳だって、自分でも思う。


「病み上がりっつったって、病んでるときもしてたじゃん」


「そ、そうだけど」


自分ばかり、ドキドキしていることに悔しさを感じた。


涼しい顔をして、味噌汁を啜るハル。

骨張った長い指先も、Yシャツから覗く鎖骨も…


全部にドキドキしてしまうんだ。


「じゃあ、行ってくる。ゆっくり休めよ…病み上がりなんだから」


「うん、行ってらっしゃい」


ハルがいなくなった部屋は、タバコの香りとハルの香水の匂いで溢れている。


今日は、何時に帰ってくるのかな…


まだ一日はこれからなのに。


時計ばかり、気にしてしまう。


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