All I have to give




ピリリリリ…


ハルの部屋から、携帯の着信音が聞こえる。


携帯を忘れて行ったのだろうか…。

でも、ハルは仕事用にも携帯を持っているからどちらにせよ困ることはないハズ。


ピリリリリ…


着信音はしつこく鳴り続けている。

もしかしたらハルがかけているのか…


『立ち入り禁止』


ハルの部屋へは入ってはいけないけれど…。


私はそっとハルの部屋へ入った。



真ん中にキングサイズのベッド。

黒いカーテン。大きなクローゼット。


シンプルで意外に片付いているハルの部屋。

携帯はベッドの上で未だに鳴り響いていた。


ディスプレイには『俺』と表示されている。

やっぱり…仕事用の携帯から自分にかけているんだ。


「もしも…」

「おっせぇよ!!」


開口一番に、ハルの怒鳴り声が響く。受話器から耳を離してもよく聞こえるほどに。


「な、何よ。人が親切に出てあげてるのに」


「さっさと出ろ!バカ野郎!」


頭ごなしに怒鳴られ、イラッとするけれど。
ここで言い返したらハルがヒートアップするだけだ。



「この携帯を今から言う場所に届けろ」


「え?」



忘れた自分が取りに来ればいいでしょ?


とは、言えずハルが指定した場所に一時間以内に行くことになった。


「もう…。無理すんなよって言ったくせに」



誰もいないリビングで悪態をつきながら、準備を済ませて部屋を出る。



アイスでも奢ってもらおう…


何だかんだ、ハルに会えることに少し喜びを感じている自分がいて。
惚れたもん負けだ…なんて思いながら。


待ち合わせの場所へと急いだ。



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