All I have to give
ハルに指定された場所に、時間通りに着いた。
いつも駅前の商店街で買い物を済ませている私は、久しぶりに人混みの多い場所へ来た。
色々な人が行き交う中、少しソワソワしながらハルを待つ。
「あなたが、悠斗の家政婦?」
「えっ、あ…はい」
声をかけられて驚いた。
スラッと背が高く、モデルのような八頭身。
長い黒髪に、真っ赤な口紅がよく似合うお人形のような綺麗な顔立ちの女性。
「あなたは…?」
「私、悠斗に頼まれて来たの…。もしかして、この前熱出していたのってあなた?」
高いヒールがカツッと鳴って、私の側まで来た。ますます背が高い。タイトなミニスカートから伸びた細い脚に釘付けになる。
「はい…どうしてそれを…?」
「悠斗ったら、焦って私に電話してきての。それにしても、随分若い家政婦を雇ったと思ったら…」
胸がざわざわと嫌な音がした。
ハルが言う、『イイオンナ』はきっとこんな人の事を言うんだ。
「日和さんに、似てる」
「日和さ、ん…?」
ヒヨリって、バーで聞いた名前。
彼女の唇が三日月型に弧を描く。
「日和さんはね、悠斗の婚約者よ。悠斗が愛している人」
「そ…ですか。あ、これ携帯です。では、失礼します」
バッグからハルの携帯を渡して、くるっと背を向けて逃げるようにしてその場を離れた。
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