All I have to give
「こんな所で会うなんて、運命?いや、この近くに悠斗の会社があるからね。悠斗に何か嫌な事でもされた?」
近くのカフェに入って、カズさんが目の前にココアを置いてくれた。
「そうじゃ、ないんです。私って…日和さんに似てるんですか?」
「え…」
カズさんが、狼狽している。
いつもの笑顔がなくなって、困ったように瞳を泳がせた。
「だからハルは私を…」
「ユナちゃん…。日和ちゃんは、今行方不明なんだ」
「行方不明…?」
カズさんの瞳が、真っ直ぐ私を見据えていて。嘘じゃないと、直感した。
「2年前にね、突然いなくなったんだ。だから、悠斗も色々辛かったと思う…。確かに、ユナちゃんを初めて見た時、似てるって思ったよ」
生クリームの乗ったココアは、歯が溶けそうなくらいに甘い。
それをカズさんは涼しい顔で、一口飲んだ。
「でも、ユナちゃんはユナちゃんだし。悠斗だって、ユナちゃんを見ようとしてるんじゃないかな…。日和ちゃんは、もういないわけだし。婚約の話も破談になってるからね」
日和さんは、何故突然いなくなってしまったんだろう…。
そんなこと、私が踏み込んでいい話ではないけれど。
「好きなんでしょ?悠斗のこと」
「え?!」
カズさんはニヤッと笑って、唇についた生クリームを舐めた。
「だから、涙が出るんじゃないの?」
「そ、そうなんですかね…よく、分からないです」
「悠斗には、幸せになってほしいし…。ユナちゃんの事、応援してるよ。まあ、俺には何も出来ないかもしれないけどさ」
苦手だった。カズさんは太陽みたいに明るくて、自分の心の闇まで照らしてしまうような気がして。
でも、悪い人じゃないんだ…。
「ありがとうございます…」
「ほら、笑って?ユナちゃんの笑った顔、見たことないよ?」
『嬉しい時は素直に笑え』
ハルにそう言われた事をふと思い出す。
私、ハルの前では素直でいたい。
いつだって、自分の感情を受け止めてくれるのは自分だった。
ハルに、会いたいって強く思う。
そんな事を思うのは、生まれて初めてだ。
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