All I have to give
「お前、まだ拗ねてんの?」
「拗ねてないよ」
夜になって、2階のベランダにあるガーデンチェアの上で体育座りをして。
じっと景色を眺めていた。
今までバーベキューの後片付けをしていたハルは、ワインやビールを両手に持って入ってきた。
「ほら、ガキにはオレンジジュース」
ペットボトルを頬に当てられて、ひんやりと冷たさが広がる。スーパーで私が飲みたくてカゴの中に入れたやつだ。
「風が気持ちいいな」
「うん」
海から流れてくる風は、生温くなくて。
ずっと当たっていたいくらい心地いい。
ハルは向かいのガーデンチェアに座り、ワインをグラスに注ぐ。
「なんか、静かすぎて世界に二人しかいないみたい…」
車の走る音や、人の声が全く聞こえない。
耳を澄ませば、波の音が聞こえそうなくらいの静寂に包まれている。
「お前となら…」
ハルは途中で言葉を遮って、グラスに口をつけた。
私は続きを待っていたが、ハルは一瞬だけ険しい表情を見せて。
「いや、なんでもねぇ…」
ポツリと言った。
私となら…に続く言葉は何だったの?
聞きたいけど、聞けない。
私がハルの心に踏み込むことは、きっと今一番怖いことだと思うから。
「最高だな。毎日こんなだったら」
ハルは柔らかく瞳を細めて、ワインを再びグラスに注いだ。
ハルのその顔が、私は一番好きだったりする。たまに見せる、地のハル。
全部、捨ててしまえば…いいのに。
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