All I have to give



「瑠美さんに…言われたから」


「何て?」


息をするのが苦しくなるほどの、動悸。


「似てる…って。ハルの婚約者だって…」


「あいつ…」


ハルは苛立ちを隠せない様子で、残りのワインを全部飲み干した。


「でも、行方不明だってカズさんが…」


そう言った直後に、会場の照明がパッと消えて。


前のステージ上にスポットライトが当てられた。


「本日は、橘ホールディングス主催…」


ハルのお父さんの会社。
皆が注目をするステージ上に現れたスーツ姿の男性が、ハルのお父さん。


ここからじゃはっきりとは見えないけれど、品のあるシルエットにはオーラがある。


「…どうぞ、お楽しみください」


挨拶を終えて、会場の照明が元に戻った。



「悠斗」



背後で、ハルの名を呼ぶ声。

高くて、柔らかくて、女の子らしい可愛い声。



「日和…」



頭が、真っ白になった。



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