All I have to give
ゆっくりと振り返る。
小さな顔。
色白で、澄んだ瞳が綺麗な弧を描いて。
優しさの滲む笑顔が、日だまりのように温かい。
私に似ているなんて、全く思わなかった。
小柄な所くらいしか、当てはまらない。
想像を絶するほど可愛くて、儚い印象。
「お前…ほんとに…」
ガクガクと震えが止まらない。
こんなすぐに、この時が来るなんて思ってもみなかった。
「そちらは?」
目が合って、日和さんはきゅっと口角を上げて微笑む。
亜美さんに名乗った時は、すんなり出たのに。
今は声すら出ない。
「私、笠原 日和です」
「えと…や、安原 結愛です…」
「可愛い名前」
日和さんの世界に引き込まれる。気持ちとは裏腹に穏やかさが広がっていった。
「悠斗、お父様にご挨拶したいんだけど…一緒にいい?」
「いや、今日は駄目だ」
「悠斗…?」
日和さんはどうしてと言わんばかりの眼差しをハルに注ぐ。
「今日は…駄目だ」
「分かった。じゃあ、またね」
日和さんは、一度ニコッと笑い踵を返した。
私と同じ、淡いピンク色のドレス。デザインは違うけれど、彼女によく合った主張しすぎないシンプルなもの。
彼女が歩くと、そこに人が集まる。
「おい、それ食いたい」
「え?あ、うん」
ハルは何事もなかったかのように、私の皿に乗る料理を指差した。私はお皿ごとハルに向ける。
「バカ!違げぇよ。食わせろ」
先程の亜美さんとカズさんのやり取りを思い出して。
バカにしていたくせに、自分もやりたいなんてハルが可愛く感じられた。
「はい、あーん…」
嬉しかった。
ハルが側にいてくれるだけで。
日和さんとこの場から居なくなってしまったら、私は居場所さえなくなってしまう。
「ちょっとあれ…」
周りがざわついても、今日ハルの隣にいるのは私だ。
ハルが言う通り、笑顔でいよう。
「次コレ」
「コレ?トマトソースかかってるよ?」
「げ、じゃあこっちの」
ひどく痛む心が、静かに悲鳴をあげているけれど。
最後の一瞬まで、精一杯咲き誇りたい。
悲しむのはそれから。
それが、"イイオンナ"でしょ?
ハル…
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